よしたろうブログ

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いろんな漫画家に影響を与えた、知る人ぞ知る本物の漫画10選!! 〜前編〜

はじめに

こちらでは知る人ぞ知る漫画10選を紹介ということで、よくある有名作品の羅列ではありません。知る人ぞ知ると題してるやつのほとんどが、みんな知ってるってそれ〜ばっかりで、そんな記事には飽き飽きだ!!という方にはオススメの記事です!

この記事で紹介する作品を一つでも読んだことがあるという貴方は本物の漫画フリークスであることは間違いありません!!ちなみにちょっと古めで、最近の漫画は含まれません。カルト漫画に近い部類かもしれません。

根拠はマンガ夜話とか、作者のツイッター・対談とか、漫画のMOOK本とか、文部科学省とかそれに類する他国の文化省庁系とか

紹介作品

  1. 新井英樹作『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン
  2. 岡崎京子『リバースエッジ』
  3. 豊田徹也『アンダーカレント』
  4. 小池桂一『ウルトラヘブン』
  5. 松本大洋作『鉄コン筋クリート
  6. 木城ゆきと銃夢 : GUNNM』
  7. 日本橋ヨヲコ『G線上ヘブンズドア』(変えるかも)
  8. 五十嵐大介『魔女』
  9. 土田世紀作『俺節
  10. 山本秀夫作『殺し屋1

1. 新井英樹作『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン

今なお熱狂的に支持されるカルト漫画の傑作

97年から00年にかけてヤングサンデーにて連載された新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、東北を舞台とし 連続爆弾犯コンビのロードムービーの一方、熊に似た巨大生物ヒグマドンが秋田県大館市に出現し、大惨事となる二つの社会事件を描く。トシモンの連続爆弾犯コンビは鬱屈した人々のカリスマと化し、ヒグマドンは一部の人々から神として崇め られるなど、一見関連性のない二つの事件が連日メディアを販わせ、日本を震撼させる。とにかく人が死ぬ。脳漿を飛び散らせ、臓物を撒き散らす。

作中ではインターネットが重要な役割を果たしたり、9.11以前に同時多発テロを描くなど、時代に先駆けた描写が多数存在する。

その過激な暴力描写とストーリー性から話題を呼び呉智英岩井俊二松尾スズキ庵野秀明宮崎哲弥高橋源一郎樋口真嗣といった著名人から絶賛された。

「命は平等に価値がない」

主人公のモンのセリフがこの作品の特徴を端的に表している。

「命は平等に価値がない」と言う主人公は冷酷な殺人鬼
「人の命はみんな繋がっている」というヒロイン?の女子高生
「命は時価です」と言い切る総理大臣
「 命を奪う行為は神に預けてた命を取り戻す戦いだ」という伝説の猟師
そして、自然災害のように無情に命を奪う巨大生物

暴力は否定できるだろうか。 そうした問いが、地球規模の大破壊にまで至り、ラストでは崇高さすら感じさせた『ザ・ワール ド・イズ・マイン』

大抵のものは子供が見ても構わないと思う。過激な性描写・暴力・不道徳。現実の影響力上回る作品など、ほとんどないと思っているから。でもこれは子供には見せられない。自我が無い人、創作物のフィクション性が解らない人、エンターテイメントだけ欲しい人、グロ耐性のない人にもオススメできません。

作品の過激な暴力・理不尽に引っ張られて、作品の持つ『問い』に気づくことが出来ないからだ。「トシモン」という人を殺しまくる二人組を主軸に、人の命の価値を問いかける。暴力性がかなり前面に描かれていながらも、この作品は道徳の教科書とまで言われた。理由は、是非よんで実感して欲しい。

ちなみに進撃の巨人は複数の作品の影響を感じますが、マブラブと並んでこの作品はかなり影響が大きいようにみえる。ツイッターとか対談でもご本人が言うてるんですけどね。

2. 岡崎京子『リバースエッジ』

90年代サブカルチャーの到達点。時代を切り取った鋭敏な感覚に心が抉られる。

1993年から1994年にかけて雑誌『CUTiE』で連載。 2018年に二階堂ふみ吉沢亮主演で実写映画化。

あらかじめ失われた子供達。すでに何もかも持ち、そのことによって何もかも持つことを諦めなければならない子供達。深みのない、のっぺりとした書き割りのような戦場。彼ら(彼女ら)は別に何らかのドラマを生きることなど決してなく、ただ短い永遠のなかにたたずみ続けるだけだ」(「ノート あとがきにかえて」より)

これがものすごく刺さった。これは30代の僕も今を生きる10代にも全く同様に当てはまる。 僕たちは生まれた時からすでに必要なものは全て持っている。あふれている。インスタントな快楽に溺れ、簡単に気持ち良くなれる。だから解らない。本当に欲しいものが。

主人公の女子高生・カンナと、ゲイでいじめられっ子の山田君、そして 一学年下で人気モデルの吉川こずえ。この3人を結びつけるのは 「河原の死体」という共通の秘密だ。

恋人とのキスやセックス時に不快感を抱くこともあるカンナは「わたしはまだ人を愛すること を知らない」と思う。吉川こずえはレズビアンであり、モデル業のために食事をしてはすぐに吐き出して体型の維持を図る。山田君はいやいや付き合っている恋人・田島カンナにこう言い放つ。

「すこしだまってよいつもいつも下らないお喋りばっかしてさ! 自分のことばっか喋って楽しい?して欲しいことばっか喋って楽しい?ねぇ?」

欲望の不感症、無化、否定。そして「死体」は絶望と虚無と暴力の象徴。

明るく楽しげな学校風景と対をなすように全体を覆う死の匂い、諦め、絶望感

生きづらさを抱える10代の自分に重ねて読んで、その時の自分が救われた感覚だった。きっとそんな想いを抱いた人間は全国に多かったはずだ。この作品は岡崎京子の最高傑作とまで言われるほどに評価された。ヘルタースケルターも素晴らしい作品だけど、個人的にはサブカルチャーシーンに与えた衝撃や単純な好みとしてこっちの方が好き。

3. 豊田徹也『アンダーカレント』

自分の心と他人の心はこんなにも離れている、そう突きつけてくるのに、優しさに満ちた作品

作者の豊田徹也さんは2003年に「ゴーグル」 でアフタヌーン四季賞(夏の大賞を受賞。翌年の「月刊アフタヌ ーン」10月号にて本作を連載開始してデビュー。単行本化ののち、 口コミで評判が広がり、今なお版を重ねている。09年にパリで開かれた「JAPAN EXPO」に 同作が第3回ACBDアジア賞を受賞した。2020年にフランスメディアで発表された「2000年以降の絶対に読むべき漫画100選」では、世界中の名だたる漫画がランクインする中、堂々の3位に選出されている。2023年秋に映画が公開される。監督は今泉力哉

銭湯の女主人かなえ。突然失踪した夫・悟。住み込みで働くことになった謎の男性・堀。夫の行方を追う探偵山崎。

「人をわかるってどういうことですか?」と探偵の山崎は言う。銭湯を営む主人公・関口かなえは返答に窮し、省みる。ある日突然失踪した夫のことを、はたして自分はどれほど「わかって」いたのだろうかと。

ミステリー仕立ての本作は、とりあえずは、かなえが夫・悟の行方を探す物語である。大学生時代同級生だった二人。十二分に理解し合って結婚したつもりだったのだが、山崎の調査によって次々と意外な事実が明らかになる。

そもそもマンガにおけるや「人格」や「内面」とはいかなるものであろうか。それはセリフや内語、ナレーションや解説、そして絵や記号表現によって総合的に描かれるものである。そこで重視されるのはひとつの「自我」としての統一感だ。ところが夫・悟にはそれが一切ない。山崎は言う。 「あのね さっきからずっとお話聞いてて思ったんだけどなんかこう見えてこないんですよ あなたのご主人悟さんのパーソナリテみたいなものが。人当たりがいい 面倒見がいい責任感がある そんなのはその人がその人たりえてるモノとはなんの関係もないのですよ」 「僕には彼が自分の本質を周囲に見せまいとする隠蔽作業を続けていたという絵しか浮かばないな」

300ページにもおよぶ本作の大部分は、人物こそ変化はすれど、主に二人の人間による対話によって進行する。ナレーションや解説などの他の文は一切なく、内語も少ない。また三人以上でわいわいと語るシーンもほんの数コマしかない。ごく主観的な視点で物語は進められ、また第三者の客観性を意図的に排除している。

一貫して分かり易さというものが排除されている。読者も、かなえとともに理解できないまま話が進む。これは徹底したリアリティを表現している。自分の日々隣にいてくれている誰かの心は、決して、一生、理解できないという現実を。

クライマックス、登場人物は皆それぞれ嘘をつく。別れ行く者に対するささやかな配慮、あるいは未来のために。果たして何が真実で何が偽りだったのか。

読み終わったときに、自分の心の深層が、徐々に浮かび上がってくる。それは見たくないもの・忘れたかったことかもしれないね。

心の奥の記憶を掬い取りながら進んでいく、静かな物語。ビル・エヴァンスの同名作をオマージュした表紙がとても美しい。

4. 小池桂一『ウルトラヘブン』

遥か彼方に飛ばされるサイケデリック表現の最終形態

サイケデリック表現において他の追随を許さない、一級のサイケデリックを描き出している唯一の作家こと小池桂一のウルトラヘブン。数年に一冊の刊行ペースで3巻でストップし、4巻はもう10年以上出ていない。。。。この作品はドラッグによる幻覚をここまであからさまに描き、 かつ技巧に富み洗練されたその表現は、 読むものに 「これは作家が実際にブッ飛んで描いているのに違いない」と思わせるのに充分なクオリティ。

ウルトラヘヴン』は近未来の日本の都市が舞台。ドラッグが市井に蔓延しており、合法、非合法を問わず、国民はド ラッグの洪水の中で生活している。 主人公カブは非合法ドラッグの売 一人で自身も幻覚剤に依存しており、常により強力な幻覚をもたらすド ラッグを追い求めている。カブは 自己破壊ギリギリのラインまで幻覚ドラッグをキメるが、それでも彼は満足しない。カブは幻覚の先に涅槃を求める求道者、といった行動をとる。

とにかく圧倒的な画力で、誰も見たことがないような鮮烈な幻覚シーンを描いて見せるのが小池桂一の真骨頂で、ここまでヴィヴィッドかつ独創的なサイケデリック シーンは漫画界では唯一無二。 知覚の変容、因果律からの開放、多元宇宙の俯瞰、内部と外部の混濁、およそサイケデリックトリッ プで起こりえるあらゆる幻覚を描写してみせるその手腕には脱帽の一言。

ペーパードラッグと言われる圧倒的な世界観は間違いなく唯一無二、誰も真似のできない世界でただ一つの表現。

5. 松本大洋作『ピンポン』

道スポ根漫画の裏は、大人の僕たちにこそ届くヒーロー物語

『週刊ビッグコミックスピリッツ』1996年連載開始、1997年第55話を以て完結。「ピンポン」は1997年、1998年に手塚治虫文化賞の候補に挙げられ、受賞は逃したものの数多くの選考委員から高い評価を得た。2002年の実写映画化、主演は窪塚洋介。2014年にノイタミナでアニメ版が放送された。

ピンポンはスポーツ漫画に衝撃を与えた。松本大洋は、当時の編集担当に「球技を題材にしたスポーツ漫画を描いて欲しい」と言われこの漫画を描き始めます。背景として、それまでの作品がニッチでマニアックで一部にしか受けず打ち切りが続いたため、王道漫画かいて売れる漫画かけこのやろう!と圧力があったと。

ところが、松本大洋が選んだのが「卓球」というマイナーな球技。当初は担当と揉めたそう。最初はサッカー漫画のプロットまで進めていたのをやめて卓球を選んだそう。 当時「友情・努力・勝利」を掲げていたスポーツ漫画に対して「嫉妬・才能・挫折」という全く逆のテーマを掲げた『ピンポン』は、スポーツ漫画界に大きな衝撃を与えた。

また、革命的な漫画表現ともいえる疾走感のあるカット割りと効果音のテキスト表現。 カット割りが割れた鏡のような不規則な鋭角が特徴的で、疾走感や躍動感を表現した。ちなみに絵は一つを除いて全てフリーハンド。卓球の球だけ、定規がしようされている。

そして、揺れる線で写実的に人間を捉える独特の絵柄と内省的なストーリーは非常に魅力的である。

およそ高校生が味わうには重く、鉄臭い鈍色に鈍く光る苦悩に、登場人物全員が苦しむ。その葛藤や苦悩、再起や選択を高校卓球を題材に描く。主要な登場人物は五人。卓球に懸ける人もいるし、そうじゃない人もいて、それぞれのドラマがそこにある。

スマイル(月本):小学校在学中にはその無表情を馬鹿にされいじめの対象にされていたが、同級生だったペコに助けられ、彼と卓球を始める。天賦の才を持つが、本気でプレイしていない。感情表現が苦手で無表情で、周囲に血が流れていないと思われている。彼はずっと待っている。

ペコ(星野):みんなの希望の星、ちゃらけているようで決めるところは決める性分から、周囲からは尊敬され「ヒーロー」と呼ばれる。明るく屈託がなく自由奔放で能天気、卓球の才能はあるが辛いことからは逃げ出すため成長しない。スナック菓子にこだわりを持つ。

ドラゴン(風間):2年連続インターハイ個人優勝。ストイックな性格だが、試合の前には無敗のプレッシャーに苦しみ便所に籠るなど繊細。心の底にある懊悩に苦しみ続ける。自身の背負う重みに襲い潰されることなく歩き続けている。一人で。

アクマ(佐久間):生まれ持った才能は無いが、十やれと言うと百でも千でもやる男。ペコとスマイルとは幼馴染、風間の後輩。性根が曲がっていて屈託だらけでこすっからい卓球をする。だけど、彼の心にある憧憬は綺麗なまま。

チャイナ(孔):卓球大国・中国で生まれ育ち、エリート意識を持っている。中国で好成績を残せず日本で再起を賭ける。異国で人生を賭けるも彼の夢は叶わない。恐ろしく惨めで孤独の中、彼が見るものは...。

才能はあるが努力を怠ったペコに対し、卓球部顧問の小泉に見いだされたことで、才能を開花させていくスマイル。そして孔もドラゴンも才能を見抜いたのはスマイルであり、ペコを意識しているのはアクマだけ。そんなアクマに卓球で負けてしまったことをきっかけに、ペコは絶望のどん底に陥っていく……。

「才能の壁」というスポーツ選手にとって何よりも辛い現実を、本作は容赦なく突きつけてくる。選手たちの敗北が、こんなにも残酷かつあっけなく描かれるスポーツ漫画は他にはないだろう。物語は「負ける側」の視点で描かれることが多く、圧倒的な才能の前に潰される選手のモノローグが最大の見せ場となっている。

その意味で本作は、負けゆく者たちを描いた物語だったとも言える。

ただ自分が思うのは、この物語は救いの話だ。かれらは物語の中で苦しみ、悩み、足掻き、挫折し、それでも歩いていくために選択をする。その選択の果てにあるもの。是非みてほしい。

6. 木城ゆきと銃夢 : GUNNM』

~書いてます~